MMR in Kanon 第1話 FORTUNE HUNTER


「祐一、放課後だよ。」
ある日の放課後、名雪がいつものようにやって来た。
「名雪、その説明口調どうにかならないのか?」
「祐一、わかり易くて良いと思うよ。それより、当分部活がお休みだから
これからどこかに行こうよ〜。…せっかくだから百花屋がいいと思うよ。」
「名雪…お前、それしかないのか?」
「祐一〜行こうよ〜。きっとイチゴもわたしを待ってるよ〜。」
「…あなた達、いい加減にしなさい。」
「香里…ちょうどいいところに来た。名雪に言ってやってくれ。」
「香里、祐一に言ってやってよ。それに香里も百花屋に行きたいよね。」
「ハイハイ、堂々巡りはそれくらいにして…ねぇ、あたしの部活を見学してみない?
きっと面白いと思うわよ。」
「へぇ、香里って部活に入ってたのか。知らなかったぜ。」
「香里が誘うなんて珍しいね。一体どうしたの?」
「ちょっとした心境の変化よ。それよりどうするの?」
「名雪と百花屋に行くよりは面白そうだな。俺は行くぜ。」
「わっ、祐一、酷い事言ってるよ。でも、わたしも興味あるな。」
「…二人とも来るのね。それじゃ、あたしについてきてね。」
香里に連れられて祐一と名雪はある部室の前までやってきました。
「ここよ。」

「え、MMR?」
そこの部室の看板には「MMR部室」と書いてあった。
「祐一…MMRって何?」
「名雪…そんな事も知らないのか?しかし、連載が終わってどこに行ったのかと思っていたら…
こんなところに…なわけねぇだろ!」
「名雪、相沢君、早く入ってきなさいよ。」
「祐一〜、はやく入ろうよ〜。」
「…まあ、とりあえず入ってみるか。」」
「あ、名雪さん、祐一さん、こんにちは。」
部室の中には栞がいて何か投書らしきものを見ていた。
「…おい、香里。どこがMMRなんだ。誇大広告でJAROに電話するぞ。」
「あら、MMRはMisaka Mystery Researchの頭文字よ。相沢君が勝手に勘違いしたんでしょ。」
「…でもなあ、仮にもクラブに自分の名前をつけるなよ。香里が卒業したらどうするつもりだ。」
「次の年は栞がやるから大丈夫よ。」
「えっ、お姉ちゃんそんな話聞いていません…。」
「栞はちょっと黙っててね。それに名前のどちらかがマ行で始まればいいんだから。
それならそんなに厳しい条件じゃないでしょ。」
「わっ、さすが香里だよ。そこまで考えているなら大丈夫だね。」
「そういう問題ではないと思うのだが…。」
「ねぇ香里、このクラブどんな活動してるの?」
「名雪、話はまだ…」
「…この街では不思議な事が起こる。いいことも、悪い事も。それだけなら、どこの街にも
あることかもしれない。しかし、この街ではあまりにも多くの事件が起こる。まるで、何かに
導かれているように…。」
「おい、香里ちょっとは人の話を…」
「それならば、あたし達がその何かをつきとめてやろう。それは辛い日々になるだろう。
そしてあたし達にはつき止められないかもしれない。しかし、あたし達の志を継ぐものが
何時かきっと…この大いなる目的の為設立された団体。それがMMRよ!」

「…で、MMRの設立の経緯はともかく普段はどんな活動をしてるんだ?」
「部室の前にあるポストにこの生徒の皆からもたらされる貴重な報告を分析し、
場合によってはあたし達自らが調査に赴くのよ。」
「香里…かっこいいよ。」
「それじゃ、ジュブナイル小説によくある探偵クラブじゃないのか?」
「最初はしょうがないわ。でも、そのうち一大組織になる予定よ。そして計画の第1歩として
名雪と祐一君を我がMMRに迎えたのよ。」
「ということは、部員って香里と栞の二人だけなのか?」
「そうなんですよ、祐一さん。一人じゃお姉ちゃんの人使いの荒さには耐えられそうに
なかったので、私うれしいです。」
「…あ、俺、急用を思い出した。悪いけど帰らせてもらうぜ。」
「わ、わたしも部活があるんで失礼するよ。」
「二人とも待ちなさい。この部屋に入った以上ただでは返さないわ。相沢君、この前、
宿題うつさせて上げたの誰だったかしら?あの時確かうつさせてくれるのなら何でも
言うこと聞くって言ったはずよ。確かその前にも…名雪も当分陸上部はお休みのはずよ。
部員は全員あたしが陸上部のスポーツドリンクに混ぜておいた例のじゃむでせいで当分運動なんか
出来ないはずよ。名雪は耐性がちょっとはあるから平気なはずだけど。」
「香里…酷いよ…。」
「くっ、この卑怯者…。」
「卑怯者…誉め言葉と受け取っておくわね。」
「それじゃあ、祐一さんと名雪さん、この投書を見てください。」

「ちょっと待て俺はまだ…」
「祐一、もう諦めようよ。」
「それが賢明ね。これは我がMMRに寄せられた投書のうちで特に興味深いものよ。それじゃ読むわね。」
『あははーっ、匿名で失礼します―っ。実はs祐理の親友の川澄舞がどうやら深夜の学校で
何かしているらしいのですーっ。今まではs祐理の父の力で色々な問題もごまかしてきましたが
そろそろ限界です―っ。親友が退学になるのは嫌なので何とかしてください―っ』
「……これは…。」
「倉田先輩だよね…。」
「…何でこんな所に相談するのだろう。あの人の考えている事は解からないぜ。」
「きっと当てにはしてないけど、一応…ということなんだろうね。」
「私もそう思うんですけど、お姉ちゃんはすっかりその気に…」
「栞…何言ってるの?この件を解決すれば、我がMMRも箔がつくというものよ。
それに…彼女はMMRの後ろ盾としては最適だわ。じゃあ、3人とも今夜8時校門に集合よ。」
「もう何を言っても無駄なんだろうな…。」
「よくわかってるじゃない。じゃあ、今夜忘れないでね。もし来なかったら…。」
「祐一さんも、名雪さんも私を見捨てたりしませんよね?」
「栞ちゃん…わたし頑張るよ。」
「それじゃこれで解散。また今夜ね。」

その日の夜、祐一と名雪は学校に向かった。夜更かしの為、名雪はあの後帰ってすぐ寝た。
「なあ、名雪。やっぱりやめとかないか?」
「ダメだよ、祐一。栞ちゃんを見捨てられないよ。」
「でもなあ、名雪達が居たんじゃ舞シナリオに入れないしなぁ…。」
「祐一、何を言ってるのかよくわからないよ。」
そうこう言ってるうちに祐一達は校門までやってきていた。もしかしたら…という
祐一の期待に反して香里と栞もちゃんと来ていた。
「相沢君、名雪、ちゃんと来たわね。」
「祐一さん…私嬉しいです。」
「くうー。」
「名雪、起きろっ!これからが本番なんだ。そんなんじゃ再び水瀬家の門をくぐれないぞ。」
「相沢君、よくわかってるじゃない。そうよ。これからあたし達は平和な日常を離れいつ
命を失うかもしれない非日常の世界に赴くのよ。みんなあたしに命を預けてちょうだい。」
「お姉ちゃん、私、命を粗末にしたくありません。」
「うむ、俺も同感だ。」
「わたしも香里に命を預けるのは遠慮したいよ〜。」
「みんなお約束がわかってないわね。こんな時は『おう、俺の命は預けたぜっ』とか『お姉ちゃん、
私はどんな時もお姉ちゃんと一緒です!』とか『香里、わたしも命懸けで頑張るよ。』くらいの
事は言って欲しかったわね。」
「そんなお約束に命をかけるのは嫌すぎだぞ。」
「しょうがないわね。まあいいわ。それじゃ校舎に不法侵入しましょう。」
「香里…わざわざそんな言い方しないでよ…。」

「祐一〜、夜の学校はなんか怖いよ〜。」
「確かにあまり気持ちのいい場所じゃありませんね。」
「あなた達、MMRがそんなことでどうするの?川澄さんは毎晩のように一人で学校に来て何か
しているらしいのよ。彼女に負けるわけにはいかないわ。」
「いや、舞とそんなことで張り合ってもしょうがないと思うが…。」
「あっ、誰か居るよ。ひょっとして川澄さんかな?」
そこには舞がいつものように剣を携えて夜の校舎に一人立っていた。
「祐一…この人達、誰?」
「よう、舞。今日はちょっとおまけがついてきてしまったんだ。」
「祐一さん…おまけなんて酷いです。」
「栞、今は言わせとけばいいじゃない。あ、川澄さん、初めまして。あたしは美坂香里です。
こちらのショートカットの子があたしの妹の栞。こっちのボーっとしてるのが友達の水瀬名雪。
相沢君のことは知ってるわね。」
「はちみつくまさん。」
「香里が酷い事言ってるよ〜。よろしくね、川澄さん。」
「私もよろしくお願いします。舞さんでいいですか?」
「はちみつくまさん。」
「さっきから気になってるんだけど、そのはちみつくまさんってのは何なの?」
「ハイがはちみつくまさんでイイエがぽんぽこたぬきさんだ。な、舞?」
「はちみつくまさん。」
「ふーん、あなた達そんな関係だったの…。栞や名雪がかわいそうね。」
「祐一さん…やっぱり胸の大きな人がいいんですか?」
「祐一…深夜の学校でデートなんて不潔だよ…。」
「だーっ、香里も栞も名雪も勘違いするなっ。俺達はそんな関係じゃない。そうだよな、舞?」
「はちみつくまさん。」
「そうなんですか…祐一さんが巨乳フェチじゃなくて安心しました。」
「…祐一が夜の学校でHするような性癖の持ち主でなくてよかったよ。」
「あのなぁ…ここぞとばかりに好き放題言いやがって。」
「まあ、そんなことだろうと思ったわ。それより本題よ。川澄さん、あなたは夜の学校で
一体何をしているの?」

「私は…魔物と戦っている。」
「魔物と?貴方が?何故?」
「私は…魔を狩る者だから。」
「…舞、それも確かにカノンだが…ゲームが違うだろ!」
「…私は魔物を討つ者だから。」
「まもの?それっていわゆる化け物の事?……祐一、もう帰ろうよ〜。わたし、魔物なんかと
戦えないよ〜。魔物と戦って死んじゃったらイチゴサンデー食べられないよ〜。
香里も栞ちゃんも魔物なんかと戦えないよね。」
「…そう、早く帰ったほうがいい。魔物はとても危険。」
「川澄さん、心配してくれるのは嬉しいわ。でもあたし達もMMRの活動をする以上、自分の身を
守る事ぐらい出来るつもりよ。ね、栞?」
「お姉ちゃん…確かにそうですけど…君子危うきに近寄らずって言葉もありますよ。」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずって言葉もあるじゃない。」
「香里〜、どっちでもいいけどわたしは身を守る事なんて出来ないよ。」
「ふっふっふっ、名雪、安心して。ちゃんとその辺は考えてあるから。栞、例のものを出して。」
「はい、お姉ちゃん。」
栞は例のポケットからけろぴーを取り出した。
「香里…けろぴーで一体どうやって身を守れっていうの?」
「名雪、ちょっと耳をかして。」
「…………。」
「えっ、そんな事が!」
「…………。」
「それはすごいよ〜。」
「…………。」
「香里、わたしも精いっぱい戦うよ。」
「わかってくれたようね。それじゃ相沢君、貴方はそんな木刀よりこっちの剣を使ってね。」
「何だ、この刀身の青い剣は?大体銃刀法はどうした?」
「今更そんな事誰も気にしてないわ。それよりその剣はあのエクスカリバーなのよ!」
「…こんなエクスカリバーがあるか!…まあ、木刀よりはマシか。とりあえず使わせてもらうぜ。」
「川澄さん、あたし達の事は心配しなくてもいいから。…今夜はつき合わせてもらうわよ。」
「…今から帰ろうとしても、遅い。…奴らはもう来ている。」

その時、祐一達の周りの空気が確かに変わった。視覚に捕らえる事は出来なくとも、
祐一達の周りにいる何かが放つ殺意は敵の存在を確信させるに充分だった。
「祐一…何かがいるよ…これが魔物なの?」
「ああ、そうだ…。奴等は目で見る事は出来ない。今更遅いかもしれないが、
逃げたいなら俺と舞が囮になるぜ。」
「相沢君、言ったはずよ。自分の身は守れるって。ね、栞?」
「はい、お姉ちゃん。祐一さんも私達の事は気にしないで下さい。」
「そんな事言っても…名雪はどうするんだ?」
「わたしも…もちろん怖いけど…祐一や香里達を残して自分だけ逃げ出すなんて出来ないよ。」
「名雪もか…舞、俺達で何とか香里達を守るぞ。」
「祐一…わかった。」
「それじゃあ、香里達は俺と舞の後ろに…って何で自分たちから突っ込んでいくんだぁーっ。」
「相沢君、あたし達が一体ずつ引きつけておくわねっ。」
「祐一さん、その間に残りの相手をしてくださいねっ。」
「祐一、川澄さんを頼んだよっ。」
「待てっ、お前達一人で奴らの相手が出来ると…ああ、行ってしまった…。舞、名雪達を追いかけるぞ。」
「わかった。でも、そう簡単に行かせてくれそうに無い…。」
「くそっ、名雪も栞も香里も無事でいてくれよ…。」

「はあ、はあ、やっぱり久しぶりに走るとちょっと辛いですね。」
夜の校舎を一人走る栞の後を見えない魔物がピタリと追っていた。
「そろそろこの辺でいいでしょうか?」
栞は立ち止まるとまるで見えているかのように魔物に対峙した。
「…………?」
「あなたは私一人くらい簡単に始末できると思って追ってきたんでしょうけど、それは大きな間違いです。」
その言葉が終わらないうちに魔物は栞に襲いかかった。しかし栞はその攻撃を難なくストールでいなした。
「人のセリフを最後まで聞かない人嫌いです。…あっ、別に人じゃありませんでしたね。
それならしょうがないですね…。」
その言葉に魔物は挑発されたのか、さっきより明らかに上のスピードで攻撃をしかけてきた。
「…………!」
「甘いんです!リフレクトッ!」
栞がストールを一閃させると、見えない魔物は校舎の床にたたきつけられた。
「!!」
「その程度なんですか…それでは今度はこちらから行かせてもらいますよっ。」
栞は一足飛びで魔物の懐に飛びこんだ。
「行きますっ!オーラソウルスルー(LV3)!」
魔物は天井にまで持ち上げられた後、青白い炎をまといながら固い校舎の床に叩き付けられた。
魔物はしばらく人型の炎を形作った後、跡形無く消えてしまった。
「ふうっ、さすがに複数でかかって来られたら辛かったですね…。おびき出して正解でしたね。」
栞は一息つくと走った来た廊下を戻り始めた。
「早くお姉ちゃんたちに合流しなくちゃ。お姉ちゃんはともかく名雪さん、大丈夫かな…。」

「うっ…これは?右足が…。」
「どうした、舞?」
「なんでもない、祐一…魔物が来る。」
「わかった。気をつけろよ、舞っ!」
「…祐一も気をつけて。」
舞は祐一にそう言いながら考えていた。
『魔物がやられた…何で私にそれがわかるの?』

「陸上部部長のわたしに平気でついて来るなんてやっぱり魔物だね…。あっ、危ないっ!」
名雪は見えない魔物の攻撃を横に飛んでかわした。
「うう…怖いけど…わたしもがんばらないとって、うわわっ!」
名雪が慌てて後ろに身体をそらすと、今までいた場所を何かがすごい勢いで凪いでいった。
「うわっ、危なかった…きゃああっ。」
魔物は名雪に更に攻撃をしかけた。
「くっ、けろぴー、わたしを守って!」
名雪がそう言うとけろぴーが光り輝き、魔物の攻撃を防いだ。しかし魔物はそんな事に
かまわず攻撃を続けた。
「あっ…しまった!」
名雪はけろぴーを手から取り落としてしまった。魔物は止めを刺すべく、名雪に襲いかかった。
「うにゅ〜…かかったね。けろぴーヒートプレスっ!」
けろぴーが赤く光り輝き魔物に襲いかかる…魔物はけろぴーの突進をまともに食らい床に倒れた。
「とどめだよっ、けろぴーメガヒートっ!」
光り輝くけろぴーが魔物を天井近くまで持ち上げ、炎をまといながら冷たい床に叩きつけた。
魔物を包む炎が消えると共に魔物の気配も無くなった。
「どうやらやっつけたみたいだね。わたしを本気にさせるにはまだまだだよ〜。早く祐一達の
所へ戻らないと。」
名雪は廊下をまた走り出した。

『また…今度は左足が…一体何が起こってるの?』
「舞!何をボーっとしてるんだ!」
「祐一…済まない。」

「がっかりね…魔物っていってもその程度なの?」
 香里は魔物の攻撃を余裕でかわしていた。
「…それならこっちから行かせてもらうわよ。ハッ、ヤッ、トウッ!」
 魔物は香里の攻撃をもろに食らい吹っ飛ばされた。魔物はかなわぬと悟ったのか、一目散に逃げ出した。
「あたしから逃げようなんて…もう遅いけどね。」
 廊下に見えない壁が現れ魔物のゆく手をふさいだ。
「逃げられたら困るから、結界を張らせてもらったわ。こっちへいらっしゃい…マグネットアンカー!」
 強力な磁力線が放出され、魔物のを拘束して香里のそばに引き寄せた。もし魔物の姿が見えたのなら
蛇ににらまれた蛙という表情が見られたに違いない。
「消し炭になってもらうわよ…エクスキュージョン!」
 魔物は磁力結界に捕らわれて内部から破壊され、一瞬で消滅した。
「本当に大した事無いわね…今ごろ栞や名雪も魔物を倒してるだろうし、相沢君たちと合流しましょうか。」
 香里は結界を解くと、祐一達のところへ向かった。

『くっ、今度は左手が…こんなに簡単に魔物を倒すなんて、あの人達って一体何者なの?』
「おいっ、舞っ、魔物がそっちにいったぞ!」
「えっ?あっ、しまった!」
 舞は魔物の突進をまともに食らい、廊下の壁に叩き付けられた。
「舞!大丈夫かっ!」
「…はちみつくまさん。」
「無理するな、今すぐ助けに…その前に、目の前にいるこいつをどうにかしないと
いけないみたいだな…。おい、お前の相手は俺だ。かかってきやがれ!」
 魔物は祐一の方が弱いと判断したのか、祐一に向かって襲いかかってきた。
「うわっ、ちょっと待てっ…って感じられる…見えないはずの動きが見えるぞ!」
 祐一は魔物の攻撃を剣で受け流すと、返す刀で斬りつけた。
「すごい…この剣のおかげなのか?ついでにこれでもくらえっ!」
 祐一が念じると、火の玉が空中に現れ、魔物を炎で包んだ。
「止めを刺してやるっ!」
 祐一は魔物に向かって飛ぶと剣を水平に突き出し、全体重をかけて叩き切った。
祐一の兜割りを食らった魔物は跡形も無く消滅してしまった。
「舞っ、大丈夫か?」
「…はちみつくまさん。」
 そこへ先に合流したのか、香里達が3人でやってきた。
「あっ、名雪も栞も香里も無事でよかった。魔物はどうしたんだ?こっちは1体倒したが。」
「魔物ならちゃんと倒したわよ。ね、栞?」
「はい、お姉ちゃん。祐一さん、私も1体えいえんの世界に送ってさしあげました。」
「祐一〜、わたしも頑張って倒したんだよ〜。」
「そ、そうか。どうやって倒したのか気になるが、そんなことは後だ。これで残りは1体だけだな。」
「でも、もう逃げてしまったんじゃないですか?」
「そうだね。1対1で互角の相手が5人もいるんだものね。」
「どうやらそれは違ったみたいね。最後の魔物が…来たみたいよ。」

 しかし現れたのは魔物ではなく、薄茶色の服を着てウサギの耳のついたカチューシャをはめている
黒い髪の毛の7,8歳の女の子だった。
「あれ?ちゃんと姿が見えるよ。…女の子?この女の子が最後の魔物なの?」
「どうやらそうみたいですね。皆さん、気をつけてください。」
「もう姿を消している余裕も無いみたいね。でも、窮鼠猫を噛むと言うわ。気をつけてね。」
「あれ…この子は…確か前に会った事があるような…?」
「祐一、私も何か思い出せそうな…!手足が…」
「川澄さん、ここはあたし達に任せて休んでいてね。相沢君、川澄さんを頼んだわよ。」
 そう言うと香里達は女の子を囲むように位置した。
「あなた…1人で私達と戦うつもりですか?そういう人は嫌いではありませんが…
悪いですけど、全力で行かせてもらいます。遺言を言うのなら今のうちですよ。」
 それまで黙って舞のほうを見ていた少女がはじめて口を開いた。
「あなた達…よくもわたしの分身を…あるべきところへ帰ろうとするのを邪魔する人達は絶対に許さないの。
みんなわたしの世界で永遠にさ迷え!黄金の秋・鎮魂歌(ゴールド・オータム・レクイエム)っ!」
 少女がそう言うと、突然1面のすすき野原が現れた。
「わっ、いったいどうしたの?確かに学校にいたはずなのに…。」
「これは…彼女が造り出した精神世界なんでしょうか?」
「そうよ、よくわかったね。あなた達3人は永遠にこの世界で暮らしてよ。わたしは祐一達と
元の場所へ戻るからね。さあ、いこう、祐一。」

「あ…ひょっとしてお前は…あの時の…?」
「祐一…どうしたの?」
「いいの。祐一も舞も元のところへ戻ろうよ。……えっ!いったいなにが…。」
 何時の間にかすすき野原は消え、もとの夜の廊下になっていた。
「どうして?なんでわたしの世界が…あの世界ではわたしが絶対なのに・・・?」
「甘いわね。確かにあなたの世界ならあなたが絶対でしょうけど…もうあの時点であたしが作った結界に
入っていたのに気付かなかったようね。あなたの能力も結界の中では絶対ではなかったようね。」
「さすがお姉ちゃんですね。あなた、覚悟はできましたか?」
「うみゅ、あの世に逝ってもらうよっ。」
 香里達は少女を取り囲み、じりじりと追い詰めていった。
「ああ…そんな…怖いよ…助けてよ、舞…。」
「ちょっと待て、お前たちっ!その子は舞の…。」
 香里達は祐一の言葉に耳を貸さず、止めを刺すべく攻撃を仕掛けた。
「エレクトリッガー!」
「オーラソウルスパーク(LV1)!」
「めがあたっく!ごぉごぉごぉ!」
「舞っ、思い出せ!俺達は昔ここで会ったじゃないか。そして俺はお前と…」
「あっ…思い出した…あれは昔の私…でも、もう遅い…。」
 香里達の攻撃が少女(まい)に命中し凄まじい音と爆風が起こった。
「きゃああっ!」

「一体どうなったんだ?…舞!しっかりしろ!」
 祐一が抱きかかえた舞は意識を無く、呼吸も弱々しかった。
「ああ…舞の分身のたる能力が消滅したんだ。舞の命も…おいっ、香里!俺が止めたのによくも…。」
「祐一…。」
「祐一さん、大丈夫ですよ。あの少女は生きてます。」
「えっ、そうなのか?」
「そうよ。彼女があたし達の攻撃を食らってもうだめだと思ったのと、川澄さんが昔の事と能力の事を
思い出し彼女を受け入れようと思ったらしくて。」
「それでどうなったんだ?」
「残念ながらとどめを刺す前に本体の川澄さんに戻ったみたいね。じきに川澄さんも目を覚ますでしょう。」
「そうなのか…何か間違ってるような気もするが、よかったな、舞。」
「ふぅー、わたし、もう少しで人を殺すところだったよ。」
「まあ、終わりよければ全てヨシ!ですよ。祐一さんも舞さんもよかったですね。」
 みんなで話していると、舞が目を覚ました。
「祐一?私は、ずっと自分と戦っていたなんて…気がつかなかった…。」
「もういいんだ、舞。もう、終わったんだ。夜の校舎で自分と戦う必要も無くなったんだ。」
「祐一…うれしい。」
 そう言うと舞は祐一に抱きついた。
「お、おい、みんながいるだろう。」
「…祐一、不潔だよ。」
「そんな事する人嫌いです。」
「まあ、名雪も栞も今は大目に見ましょうよ。ふたりも何時までもこんなところに居ないで
外へ出ましょうよ。ね?」
 香里達は夜の校舎から外へ出た。
「なんか今夜は色々あったな。」
「そうだね、でも、もう川澄さんも夜に学校に来る必要もなくなったし。」
「倉田さんの依頼はちゃんと果たせたわね。コンビニでなにか買ってお祝いしましょうか。」
「お姉ちゃん奢ってくれるんですか?」
「なに言ってるの、割り勘に決まってるじゃない。」
「…ケチ。」



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